キノコに親しもう
ユキノシタの別名を持つエノキタケは真冬でも収穫可能
ツガサルノコシカケは数十年間、こんな感じ。これもキノコ
カバイロツルタケの幼菌。万人が「キノコ」と認める形
一日で姿を変えるヒトヨタケ
ああ、こりゃ確かにスポンジですね(ヤマドリタケ)。
キノコの旬といえばなんといっても秋、という印象が強いでしょうが、そんなことはありません。キノコに多少なりとも関心のある人には常識かもしれませんが、そのシーズンは意外と長いんです。
たとえばシャグマアミガサタケは4月から、アミガサタケやベニテングタケは5月ごろから姿を見せ始めますし、6月にもなればその種類はぐんと増えます。エノキタケは秋が深まってから成長し、雪をかぶりながら年を越して翌春まで収穫できます。すなわち、一年中、なにかしらのキノコは目にすることができるといえるのです。
もっとも数・種類ともにピークを迎えるのは7~9月ですが、「秋」と限定するには長すぎる期間にわたります。現実的には6月から10月末くらいまでは数多くのキノコに出会いますし、5月に始まって晩秋、霜の降りるまではキノコの収穫期です。
キノコとはなんだろう?
ところで、そもそもキノコとは何か。とりあえず漢字で書いてみるとよくわかります。簡単すぎるかなあ。ここは話の都合上、「木の子」と書いてください。読んで字のとおり。木の子供。キノコと木が切り離せない関係であることをよく示していますね。
え? それ当て字じゃん、って? キノコは木の子供じゃないって? いやあ参ったなあ。その通りなんだけど、話の都合上と断ってるじゃないですか。 じゃあもう一つ書いてみましょう。茸。今度は正解ですね。草冠に耳。キクラゲなんかのイメージにぴったりです。いやあ、誘導尋問だけど、 草冠の漢字だからキ ノコは木の仲間、少なくとも植物のような気がしますね。
しかし本当にそうでしょうか。
この他にもまだキノコを示す漢字があります。それは「菌」。ばい菌や細菌の「菌」ですが、音読みがキン、訓読みが「きのこ」なのです。え~! 漢和辞典で調べてくだ さい。本来、菌というのはキノコをさすことばだったんですね。つまりキノコとは何かという質問に対しては、(植物の仲間ではなく)、菌類です、というのが答えなのですが、「キノコとはキノコ(菌)である」と同意反復で答えているわけですね。
いずれにせよ、キノコは植物ではない、ということを知るのはキノコ入門の第一歩。それによって生態のさまざまな秘密がわかってきます。
さ て、キノコが植物ではないことがわかったわけですが、木や草に深い関係があることに違いはありません。”木の子”の当て字がしっくりくるように、木・草 のないところにキノコは発生しません。そしてまた”木の子”が暗示するように、特定のキノコは一定の木(の周辺)にのみ育つのが通常です。分かりやすい例 でいえばマツタケは松林に、エノキタケはエノキやヤナギなどの広葉樹に「だけ」生えるという特徴があります。
これは種の同定には大事なことで、採取したキ ノコに似たものが図鑑に複数掲載されている場合、それがどういう場所に生えていたかも判別の一つの鍵になります。写真を撮る場合にはキノコの全体像、各部 のクローズアップなどに加え、生育環境も撮影しておくと役にたちます。
フィンランドのキノコ
キノコを漢字で書くと菌。文字によって生態が明らかになることは前述しましたが、フィンランド語でも似たような感覚があります。フィンランド語ではキノコのことをsieniといいいますが、これにはスポンジという意味もあります。入浴時や食器洗いに使うアレですね。どんな関係があるのか、と思って も不思議はありませんが、イグチ科のキノコを見ると納得できます。
イグチ科のキノコというのは ヤマドリタケ=Herukkutattiが代表選手。ポルチーニといえばピンと来る人もいるでしょう。 イタリア料理によく使われるものです。 とはいえ食卓に載った状態だとわかりませんが、自然に生えているものなら傘の裏に大きな特徴があります。シイタケなど、一般的なキノコならヒダがある部分がまさにスポンジとしかいえないような外観なのです。
この部分を管孔といいますが、昔むかしにイグチを初めて見たフィンランド人がその印象からオー、 スポンジ(sieni)、すなわちキノコ、と名付けたとしてもうなづけます。 フィンランドではイグチ科のキノコは大量に発生し、そのほとんどが美味。他のキノコと見間違えることもないのでキノコの代表(少なくともフィンランドでは)といっても大げさではありません。
ですからスポンジ→sieni(キノコ) という命名は極めて自然でしょう。発祥はどちらが先が知りませんが。
ありがたくないキノコもある
キノコの生育には植物が欠かせませんが、フィンランドでは人間の足の裏にはえる こともあります。これをjalkasieniといいますが、jalkaとは足のことなので、直訳すると「足のキノコ」。さてその実態は。なんとなくわかるでしょうが、水虫のこと。水虫の正体がムシではなく菌であることは常識ですが、おや不思議。sieni・キノコは菌であることを、フィンランド人も日本人も知っていたわけですね。
ところで、キノコのことを英語でmushroomというのはご存じでしょう。しかし、マッシュルームと書くとスーパーマーケットの棚に並ぶ商品が目に浮かんできます。日本名はツクリタケ。そういうとイメージが遠ざかるかもしれませんが、シャンピニオン(仏)と言い換えるとまた思い当たるかな。
英語のmushroom はキノコの総称であるとともに、特定種の名前でもあるんですね。いいかげんと言えばいいかげんだなあ。