左がマツ、右がトウヒ
ヌークシオ国立公園などと歩いていると「うわ~大きな松ぼっくり」なんて驚いている人がいる。夏場のヌークシオには日本人ハイカーが多いので、日本語が聞こえてきても不思議はないのだ。 そんなとき、「いや、それは松ぼっくりじゃなくて……」などと声をかけたくなるのだが、思いとどまっている。理由はふたつ。
まず、いきなりそんな余計なお世話を言い出したら単にアブナイおじさんだからね。
二つ目の理由は、ひょっとするとわかってて言ってるのかもしれないから。な~んてことはまず100%ないのだが、果たして松ぼっくりという言い方は本当に間違いなのかどうか、よくわからないのだ。
松ぼっくり。語源は松ふぐり。またの名を松笠。植物用語では球果という。写真の左側が松の実、右側がヨーロッパトウヒのそれである。松ぼっくり=松笠は、マツ科マツ属が実らせる果実のはず。つまり、球果のうち、マツにできるものに限られるのではないか。したがって同じマツ科でもトウヒ属であるヨーロッパトウヒの球果は松ぼっくりとするのはいかがなものか。たとえば松脂はマツの樹液で、桜からも似たような樹液はとれるが、これを「桜の松脂」とは言わない。
そんなわけでトウヒの果実を松ぼっくりと呼ぶのには抵抗があるのだが、モミやツガの球果も松笠と言う人もいる。そういう人は球果がなんであるかを知ったうえで、便宜的に松笠(松ぼっくり)と呼んでいるのだろうか。あるいは「モミの松ぼっくり」などと総称するのは一般的なのだろうか。その辺がよくわからない。そのため細長い球果に感激するハイカーがいても「それは松ぼっくりじゃなくて……」などとは言い出さないのである。さらに「これはトウヒの球果ですね」なんて言いだした日にはアブナイ+嫌味なおじさん確定だしね。